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2006年2月10日 (金)

横浜事件再審、名誉回復されず

戦前の治安維持法による言論弾圧事件「横浜事件」の再審判決は、大変残念なものとなりました。

「横浜事件 再審は免訴 戦時下の言論弾圧に判決」(中日新聞)

 戦時中最大の言論弾圧とされる「横浜事件」の再審判決公判が九日、横浜地裁であり、松尾昭一裁判長は、すでに故人となっている元被告五人全員に、有罪か無罪かを判断しない「免訴」判決を言い渡した。神奈川県警察部特別高等課(特高)に治安維持法容疑で逮捕され、終戦直後の混乱期に有罪判決を受けた雑誌編集者らは、約六十年ぶりのやり直し裁判でも名誉回復はならなかった。弁護側は判決後「直ちに控訴する」と述べた。
 ◆有罪、無罪判断せず
 松尾裁判長は「治安維持法が廃止され、被告人らは大赦を受けた。免訴理由が存在するため有罪・無罪の裁判をすることは許されない」と述べた。
 再審公判で弁護側は無罪を主張し、証拠採用された生前の元被告らの証言ビデオの上映などを通じて、過酷な拷問で虚偽の自白に追い込まれた経緯や当時の横浜地裁のずさんな裁判手続きを詳述。遺族四人が証言し、元被告らの名誉回復や事件の全容解明を求めるとともに、「司法の戦争責任」を認めるよう訴えた。
 検察側は「治安維持法は刑が廃止され、当時の罪の大赦も済んでいる」などとして、免訴を主張していた。
 旧刑事訴訟法下で有罪が確定し、死亡した元被告の再審は初めて。裁判記録のほとんどが保管されておらず、再審で審理する「犯罪事実」は弁護団が復元した原判決の内容とされた。
 再審は昨年の十月十七日に初公判があり、十二月十二日の第二回公判で結審した。
 再審被告は、元中央公論社社員、木村亨さん▽元改造社社員、小林英三郎さん▽元古河電工社員、由田浩さん▽元日本製鉄社員、高木健次郎さん▽元南満州鉄道調査部員、平舘利雄さん(いずれも故人)。
  ■横浜事件 「共産主義を宣伝した」などとして1942年から終戦直前にかけ、治安維持法違反容疑で雑誌編集者ら60人以上が神奈川県特高課(当時)に逮捕された言論弾圧事件の総称。30人以上が起訴され、多くは終戦直後に有罪判決を受けた。獄死者は4人。拷問した警察官3人は戦後、有罪が確定した。再審請求は4次にわたり、横浜地裁は2003年、3次請求について再審開始を決めた。東京高裁も決定を支持し確定。05年10月から再審公判が始まり、同12月に結審した。
 ■免訴 検察官の公訴権がないことを理由に、犯罪事実の有無を判断せず裁判手続きを打ち切る制度。刑事訴訟法は(1)同じ犯罪について確定判決がある(2)犯罪後に刑が廃止(3)大赦(4)時効成立-の場合は、免訴の判決を言い渡さなければならないとしている。旧刑訴法にも同様の規定があった。
 ■治安維持法 日本共産党を中心とした革命運動などを取り締まり対象とし、1925年4月に公布された。3年後には最高刑が死刑に引き上げられ、労働組合やプロレタリア文化運動などの参加者にも適用を拡大。作家小林多喜二虐殺(33年)などが起きた。戦時下で思想、言論弾圧の強力な武器とされ、終戦前の横浜事件では雑誌編集者や新聞記者らが大量に逮捕された。敗戦を受け45年10月、勅令により廃止され、大赦が行われた。

報道された判決要旨によると、元被告関係者らが“免訴判決では、原判決の瑕疵(かし)を不問に付すことになる”という批判に対し、「相当の重みを持つことは否定しがたい」としながら、「原判決は、本判決の確定によって完全に失効する」のであり、免訴判決が「被告人らの名誉回復の道を閉ざすものということにはなら」ないとしました。

しかし、関係者が求めていたのは、戦時中に警察や検察、司法が行った過ちの是正措置でした。「法の廃止」を理由として、弾圧を加えた国家の判断が正しかったのかについての検証がうやむやにされてはならなかったと思うのです。

治安維持法は、「国を統治する全権限を天皇が握る専制政治」の打倒をめざしていた日本共産党の存在自体を「犯罪」として敵視し、同党を中心とした革命運動、反戦・平和運動、さらには天皇中心の国家のあり方(「国体」)を否定する人たち、疑問をはさんだ人たちを「犯罪者」として扱い、死刑を最高刑として、弾圧を加えました。上記報道でも紹介されている小林多喜二(彼は同党員でした)の虐殺、経済学者で同党責任者だった野呂栄太郎の事実上の虐殺をはじめ、約200人を虐殺・拷問死に、約1500人を獄中病死に追いやり、逮捕・投獄者は数十万人に達したといわれています。そして、こうした装置で“銃後”の国民の口をふさいで、日本はアジアへの侵略戦争を遂行していったのです。

戦後制定された日本国憲法は、天皇を「神聖ニシテ不可侵」とした立場を否定し、「主権が国民に存する」ことを明確に規定しました。また、国民が「すべての基本的人権の享有を妨げられない」として、基本的人権を「侵すことのできない永久の権利」と位置付けました。つまり、治安維持法の立脚点を大本から否定したのです。

ハンセン病問題では数年前、「らい予防法」などにもとづく患者・元患者の隔離・差別政策が国の誤りであったことを、司法が断罪し、国の責任による補償が始まりました。しかし、治安維持法の犠牲者に対しては、国からは何ら謝罪も補償も行われていないのです。横浜事件の再審判決で、国の誤りを断罪することは、その是正の第一歩を踏み出すうえで、どうしても回避できないだけに、今回の免訴判決は、誤りの上塗りにしかならないと思うのです。

さらに、過去に対する自己検証の視点は、今日的な問題でもあります。東京新聞は10日付の社説で、

「近年、ビラ配りなど表現にかかわる軽微な違反行為で相次いだ逮捕や拘置も、裁判官の出す令状に基づいている。犯罪とされた行為が民主主義の基盤である表現の自由にかかわるだけに、もっと慎重な判断が期待される。
 週刊誌などの報道を委縮させ、多様な情報の流通を妨げている名誉棄損慰謝料の高騰は、国会で某党議員が最高裁事務総局幹部に引き上げを迫ったことが引き金になった。
 露骨な弾圧こそ影を潜めたが、人権擁護法案など言論・表現や報道を規制する試みも相次いでいる。横浜事件は決して過去の話ではない」

と書いたことには注目し、銘記しておく必要があると思います。

なお、このさい、もう一言しておきたいのは、事件当時にメディアが果たした役割についてです。読売新聞10日付の1面コラム「編集手帳」は、

「新聞も眼をつぶされ、口を封じられ、『横浜事件』では言論弾圧を傍観する立場に甘んじている」

とのべました。他の全国紙の社説や1面コラムが、事件でメディアが果たした役割に一言もふれなかった(「産経」は1面コラムでもふれていない)なかで「読売」だけがふれたという意味では、大事な指摘だと思います。ただ、こちらの方がはるかに重要なのですが、「読売」をはじめメディアは単に「傍観する立場に甘んじ」ただけでなく、弾圧に積極的に加担する、あるいは当然視する立場で事件を報じたのではなかったのですか? そのことの自己検証も、司法の自己検証とともに問われているのではないですか? 他人事でいられては困るのですよ。

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コメント

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投稿: Under the Sun -EQT- | 2006年2月12日 (日) 午後 09時58分

TBありがとうございました。横浜事件――昔の話でしょ、という感覚で片付けられているのは許せないことですね。

投稿: 華氏451度 | 2006年3月26日 (日) 午後 06時13分

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