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2006年9月19日 (火)

「残業代が消える」

20060911132006毎日新聞社発行の『エコノミスト』9月19日号は、「残業代が消える 働けど働けど給料増えずの現実」という特集でした。

巻頭の「なくならない『偽装請負』 都合よく動かされる労働力」では、松下電器産業のプラズマディスプレーを製造する子会社「松下プラズマディスプレー(PDP)」で行われていた違法雇用契約の「偽装請負」の実態を詳しく紹介しました。「偽装請負」は、製造ラインに導入している請負社員に対し、本来彼らを指揮命令する権限のないユーザー企業の社員が、業務上の指示を行うもので、記事では、請負会社に働く男性が、松下PDP社員から、細かい作業指示や休日出勤の要請をはじめ業務上の指示を日常的に受けていたことが紹介されていました。

最近よく行われている「派遣」、つまり人材派遣会社から派遣社員を受け入れる労働者派遣と、この業務請負の違いは、派遣では労働者への指揮命令権限が派遣先企業にあるのに対し、業務請負ではユーザー企業は請負社員を指揮命令することができないという点にあります。ところが、この松下PDPは業務請負契約でありながら、請負労働者に指揮命令を行っていた、というわけで、昨年7月に大阪労働局から是正指導を受け、それまでの業務請負契約を労働者派遣契約に切り替えた、という次第なのです。

で、こうした「偽装請負」は、「日本を代表するメーカー系列の生産現場で次々と発覚しているのである」ということなのですが、なぜ、こうしたことがはびこるか。記事では、その事情を、

外部社員活用の選択肢のうち、企業にとっては、業務請負のほうが労働者派遣よりもコストが低く抑えられるのが魅力的に映る。派遣労働者に対しては、正社員と同じように労働基準法や労働安全衛生法などの労働者保護法が適用されるが、請負社員なら、労働安全上の義務などを負わずにすむためだ。

と指摘。派遣社員ならば最長1年後にはユーザー企業には直接雇用を申し入れる義務が生じることを紹介したうえで、

コストが安く、安全責任が曖昧で、しかも、いくら使っても直接雇用の義務が発生しない業務請負の形をとりながら、実際の生産現場では、自社の正社員に指揮命令をさせる――偽装請負の横行は、企業のご都合主義が生んだ「いいとこどり」の産物といえるだろう。

と批判しています。

また、関根秀一郎・全国コミュニティユニオン連合会副事務局長の寄稿ルポ「時給500円。『デジタル日雇い』族の過酷」も、派遣の現場で働く若者らの実態をえぐり出しています。ユニオンへの相談で寄せられた、派遣で働く若者の声を短く紹介しているのですが、これもスゴいです。例えば、

「日雇いで派遣され、正社員とほぼ同じ仕事をさせられているのに、時給はたった700円」(20代女性)、

「(アルバイト派遣の)当日キャンセル罰金10万円、前日キャンセル5000円、現場への遅刻10分ごとに1000円の罰金」(20代女性)

「コールセンターに派遣され、週5日で1年間働いたが、日雇いなので雇用保険も社会保険もない。有給休暇を請求したら、即日解雇された」(30代男性)

などなど、無法のオンパレードや!

で、この関根氏が人材派遣会社に登録して、倉庫作業の現場(時給848円)で実際に働いてみると、朝9時から夜6時まで、倉庫内で段ボールを運ぶ作業で、「1時間もすると汗びっしょりになり、腰に疲労がたまってきた」(腰痛持ちのかわうそなら、もうもちませんね)。「夕方近くには、ほとんど体が動かなくなっていた。…マイクロバスに乗り込むと疲労感がどっと襲ってくる。行きのバスでは会話があったが、帰りは誰もが無言だ」。

仕事をした数日後、日給をもらいに行くと、本来の日当6784円から「データ装備費」200円を天引きされたうえ、集合場所までの往復交通費、弁当・飲み物代、仕事で必要と買わされたポロシャツ代を差し引くと、残りは5000円。集合場所と現場の往復を含めた拘束時間(朝7時~夜7時)を考えれば、実質の時給は500円! 「月20日働いても12万円未満だから、独立生計は到底無理だ」と紹介した上で、

「規制緩和」で最低限の労働者保護が削り取られ、法で排除されていた中間搾取など前近代的な雇用慣行が復活し、日雇い労働やタコ部屋労働(偽装請負)が蘇ってしまった

とのべています。

こうした「前近代的労働」が再びはびこるようになった背景には何があるのか。これについて、同誌編集部は「日本の労働市場を操ってきた11年前の『日経連シナリオ』」で、1995年に当時の日本経営者団体連盟(日経連)――別名「財界労務部」――がまとめたあの有名な「新時代の『日本的経営』」で、今後の雇用形態を①長期雇用の長期蓄積能力活用型②長期雇用を前提としない高度専門能力活用型③多様な就労形態に対応する雇用柔軟型――の3つに類型化し、①以外の職種を非正規社員に置き換えることを提起したことを指摘しています。

記事では報告書の作成に参画した日本経団連の紀陸孝・専務理事の「報告書で雇用形態が変わったのではなく、企業経営や働く人の意識、労働市場が柔軟化してきたことで雇用の多様化に加速がついてきた」とのコメントを紹介したうえで、

新しい日本的経営として、非正規雇用の拡大とリストラ、正社員の賃金抑制は正当化され、一連の労働規制の緩和がその環境を整えたのである。

と指摘しています。日経連の報告については、こちらでもちょこっとつぶやいたことがありますが、この指摘は全くその通りだと思います。

さらに一言いうなら、こうした財界の意を受けて、その財界から巨額の政治献金を受けている自民党がその法制化を進め、これに、同じく財界から多額の政治献金を受けている民主党などが同調して、労働法制の規制緩和を進めてきた、ということを指摘する必要がありますね。

例えば、「裁量労働制」を専門職からホワイトカラー全般に拡大した1998年の労働基準法改定では、自民・民主・公明・社民・自由が賛成したし(反対は共産のみ)、99年の労働者派遣業務を原則自由化した法改定でも、自民・民主・公明・社民・自由が賛成したし(これも反対は共産のみ)、2003年の労働者派遣を製造業に解禁したさいには、自民・公明・保守が賛成しました(反対は民主・共産・自由・社民)。こうした政治の動きがあって、現在の事態をもたらしているということは、厳しく見ておかなければならないと思うわけです。

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